ベーシストのアニメ語り 〜時々音楽〜

ベーシストが音楽よりも優先してアニメ、映画などオタクコンテンツを語るブログです。

『ウマ娘』はタランティーノ映画!

 

ウマ娘』。

 

 

知ってますか?

 

 

今おそろしく流行ってるコンテンツです。アプリゲームを中心としたメディアミックス作品ですが、2021年2月のアプリリリースにより爆発的に人気が出ました。

内容としては実在の競走馬を美少女に擬人化したキャラクターを育成してレースで勝たせるという中々クレイジーな作品です。

 

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こんな感じですね。うん、可愛いです。

 

こういう美少女擬人化ってどれが始まりなんだろう?まぁ探したらとんでもなく昔からあるんでしょうが、記憶を辿ってみるとOSたんと呼ばれるWindowsのOSを擬人化したキャラが2000年代初頭に出てきて、その辺りからフィーチャーされるようになってきたような感覚があります。

 

その後、国を擬人化したヘタリア(これは男の子化)」、戦艦を擬人化した「艦これ」、宝石を擬人化した宝石の国など言い出したらキリがありませんが、最早擬人化というのは一大ジャンルになっている訳です。

 

そんななか彗星のごとく現れた「ウマ娘」ですが、アプリリリース以前から企画はスタートしていて漫画、アニメ、キャストライブなどはしてましたね。

僕は特にアニメ、声優系の情報に敏感なのでなんとなくチェックはしていて、アニメ1期の1話もリアルタイムで観てました。

が、そもそも競馬について全く知らないということもあり、なんとなく乗れなくて(競馬だけに)アニメは1話切りをしてしまってました。

 

ところが今回の超ヒットにより周りからアプリをススメられる事が多く、やってみるとあれよあれよと大ハマリ。

アプリである程度情報を仕入れてからアニメを一気観したのであった。ちょうど2期が終わったタイミングというのも良かった。ありがとうアマゾンプライム

 

で、アニメを観て感じたことを今回は語ろうと思う。

 

最初に言ってしまうとウマ娘のTVアニメは1期、2期共々めちゃくちゃ良かった。面白かった。そして一番思ったことは、

 

ウマ娘タランティーノ映画だ!

 

ということだ。

 やっとタイトルに追いついたが、僕はウマ娘タランティーノの新作として楽しんだのである。

 

アニメ版ウマ娘は1期と2期で主人公、フィーチャーされるキャラクターが違う。

 

1期→スペシャルウィークサイレンススズカエルコンドルパサーなど)

2期→トウカイテイオーメジロマックイーンライスシャワーなど)

 

という感じ。実在する(した)競走馬を擬人化しているため、基本的にキャラクターの設定やレース結果は現実と同じになる。

例えば1期主人公のスペシャルウィークは産まれると同時に母親が死に、産みの母と育ての母の二人がいるという設定だが、これは元になった競走馬スペシャルウィークそのままの話だ。

他にレース内容などもwikiで調べるとアニメを観るまでもなく「あー、デビュー戦は勝つのね」と、結果がわかってしまう。だが逆にそれが面白く、現実に起きたことがどういう風に再現されているのかという興味につながった。

 

特に僕は競馬知識ゼロ人間なので、気になったウマ娘の元になった競走馬を調べるということが楽しくて、どんどん知識が増えていっている最中だ。

ウマ娘は競馬を知っている人は凄く楽しめるし、知らない人には新しく競馬知識を仕入れる楽しみがある。

 

そして、知識を仕入れると、衝撃的な事実を知ってしまったりもする。

 

1期のメインキャラクター、サイレンススズカスペシャルウィーク憧れの存在として登場するが、競走馬サイレンススズカを少し調べるだけで出てくる……

 

1998年、秋の天皇賞のレース中に骨折し、安楽死になってしまう、

 

という現実が。Youtubeでも動画が簡単に見つかる。

 

ただでさえ悲しい出来事なのに擬人化され感情移入した状態でその事実を知ってしまうと凄く感情を揺さぶられる。

 

そして、アニメ1期7話でスズカが天皇賞に出ることになる。

それだけで史実を知っている人間はとてつもなくドキドキするのだ。

 

えっ、だって天皇賞に出走したらスズカは……。

 

エヴァ破でアスカが参号機に乗ることになったのを観た時の気持ちに似てる

どうなるのかハラハラしながら観ていると、やはりスズカは故障をきたし骨折してしまう。

だが、ここからが違った。骨折した彼女は死ぬことはなく、リハビリを終え無事復帰することになり、海外遠征まで行うことになる。

これはアニメファンだけでなく、競走馬サイレンススズカのファンをも救うことになったのでは、と思う。

 

「事実は小説よりも奇なり」というように、フィクションはノンフィクションに勝てないという意見もあるだろうが、アニメ、映画、漫画などフィクション作品が大好きな僕としては、フィクションが持つ可能性を信じている。

現実で起きたことをフィクションによって救うことは出来るのだ。きっと。

 

それを感じたウマ娘、1期7話だった。

 

そしてこれと同じことを以前からやっている男がいる。それが、

 

クエンティン・タランティーノ

 

だ。アメリカの映画監督で、パルプ・フィクションキル・ビル辺りが一番有名だろうか。

僕はタランティーノが結構好きなので殆どの作品を観ているが、最近タランティーノは「映画にノンフィクションを混ぜながらも、その事実を改竄しハッピーエンドに変更する」という作品を作っている。

 

例えばこれ、

 

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 イングロリアス・バスターズ

 

大雑把に言うと舞台は第二次大戦中ドイツに占領されたフランスで、ナチスに家族を殺された女の子(ショシャナ)が成長してヒトラーに復讐しようとするという話だ。

 

ショシャナは自分がユダヤ人だということを隠し映画館を経営し、ドイツのプロパガンダ映画を上映することでその上映会にヒトラーを含めたナチス幹部を呼ぶことに成功する。そして映画館を爆破して復讐を果たすという計画を立てるのだが、観客は知っている……

 

ヒトラーはそんな死に方はしない、ということを。

 

そう、この計画は成功しないのである。

僕も映画を観ながら、ヒトラーという誰でも知っている人物が登場することにより、この計画が成功しないであろうことを理解した。つもりだった。

 

しかし予想を華麗に裏切り、映画館は爆破されヒトラーは死に、ショシャナの復讐は果たされる。

それを観た時に僕は初めて、史実を扱うからといって現実と同じ結末にしなければならない、なんてルールはない!ということを知った気がした。

あくまでも僕たちが観ているのはフィクションで、その中にくらい希望や幸せがあってもいいじゃないか、と。

 

まあ爆死させられるヒトラー個人に関しては少しだけ気の毒に思わないでもないが(笑)。

 

このタランティーノ手法が最高峰に達したのがこれ。

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ブラット・ピットとレオナルド・ディカプリオのW主演で話題になった、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」だ。

 

この映画は1960年代後半、ディカプリオ演じるかつてTVスターだったが今は落ちぶれてしまった俳優「リック」と、ブラピ演じるリックの親友で専属スタントマンの「クリフ」の話。

二人の周りでは色んな事が起こるのだが、ストーリーのメインになる話が何なのか分かりづらく、「何をしたかったのかよくわからない映画」という感想の人も多い印象だ。

 

確かにその通り。この映画は一つの歴史的事件を知っているかどうかで面白さが全く違う。

 

映画でディカプリオはハリウッドの豪邸に住んでいるのだが、その隣に引っ越してくるのが、ロマン・ポランスキーシャロン・テート夫妻だ。

 

この夫妻は実在した人物で、ロマン・ポランスキーは当時売れっ子だった映画監督、シャロン・テートは売出し中の若手女優。

そして史実では1969年ロマン・ポランスキー不在の中、自宅で友人と一緒にいたシャロン・テートが、押し入ってきた狂信的なカルト信者たちによって惨殺される、という事件が起きている。詳しくはこちら↓

 

この事件は当時のアメリカに衝撃を与えた。それを知っている人がこの映画を観ればシャロン・テートが登場した瞬間にその先を想像するはずだ。

その辺りについて詳しい説明がないので、この映画は事件を知らない人にとってはよくわからない作品に感じるのだろうと思う。

 

そして肝心な内容だが、シャロン・テートが殺害されるまさにその日、自宅に侵入しようと近くをウロウロしていた犯人たちをリック(ディカプリオ)が「うるさい」と注意した事で、犯人たちのターゲットがシャロン・テートからリックに移るのである。

シャロン・テート宅ではなく隣のリック宅に侵入した犯人たちだったが、中に居たクリフ(ブラピ)は戦争帰りの手練れで、返り討ちにされ(観ているこっちが痛くなるほどのボッコボコだった)、残ったひとりなんてリックが過去の出演作で使った火炎放射器で黒焦げにされてしまう。

 

なんというカタルシス!(笑)

 

そしてラストシーン。

 

警察が駆けつけ騒然とするリック宅。外にいたリックにインターフォン越しにシャロンが話しかける。気を利かせシャロンがリックを家に招くところで映画は終わります。

 

そう、この映画の中ではシャロン・テートは殺される事なく幸せに生き続ける事ができたのだ。

 

所詮映画、されど映画。所詮フィクション、されどフィクション。

フィクションによってノンフィクションを捻じ曲げることのカタルシスを初めてしっかり認識させてくれた作品、それが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」だった。

 

 

前置きが長くなったが、死ぬことなく走り続けるサイレンススズカを見たとき、この映画を観た時と全く同じ気持ちになったのである。

だからウマ娘は僕にとって新作タランティーノ映画、なのだ。

 

もしあの時ああであれば。こうであれば。

そんな夢を見させてくれるものがフィクションには詰まっている。

 

ウマ娘、アニメ2期においてもトウカイテイオーの度重なる骨折からの復活、メジロマックイーンの左脚部繋靱帯炎からの復活(こちらは可能性という希望を残している)を描き、スクリーンの中の彼女たちは走り続ける。

 

堅苦しく書いているが1期スズカのシーンや、2期の後半はずっと泣きながら見ていたくらいで、競馬経験ゼロでも大いに乗れたし(ウマだけに!)、単純に凄く面白い作品だった(特に2期は)。

 

個人的にはライスシャワー推しなので2期7話8話はほんと最高だったのだが、今回アニメで再現されることのなかった95年宝塚記念の悪夢をいつかタランティーノばりに吹き飛ばしてくれる事を、心より期待する。