前回、新海誠との馴れ初めを書いたので今回こそはすずめの戸締まりの感想を書こうと思う。もちろんネタバレありありよ。
『すずめの戸締まり』
なんだかんだ言いつつもう8作目なのか、と感慨深くなる。
今回は劇場公開に先駆けて冒頭12分をアマプラで先行公開してたりしたが、完全ノータッチで劇場へ。
見に行くの決まってるんだから、必要ないよね?
最近プロモーションで数分を先行公開するアニメ映画多いけど、正直それきっかけで見に行く事なんてないし、見る気の映画は見たい欲を我慢しなきゃだし、良い事ない!
まあ閃光のハサウェイなんかは、なんとなくyoutubeの先行公開を見ていたお陰で配信始まった時に見やすかったりしたので、やっぱりそれなりに効果はあるんだろうけど。
とにかく心待ちにしていた公開日、仕事の合間に映画館へダッシュ。
「天気の子」は君の名は。のフォーマットを引き継いで作られた映画だったから、ある意味安心感あったが今回は君の名は。から数えて3作目。
ここで当てるかコケるか、大事なとこだぞ、とドキドキしながら席へ。
事前情報をほとんど入れる事なくの視聴。
とりあえずヒロイン(すずめ)の声が、君の名は。、天気の子のヒロインの声と全く区別がつかない。
別にこれは批判ではないんだけど、新海誠の趣味というか、ヒロインには「無垢」を凝縮した声が毎回当てられるなぁとしみじみ。
新海、お前無垢な娘が好きなのか。真っ白な娘が好きなのか。
まあこの辺はジブリも同じですけどね。
草太役の松村北斗(SixTONES)も特別上手くはないんだけど、違和感なく見れた。
メインの二人がガッツリ声優じゃないし、周りにも本業声優じゃない人が多かったので違和感が生まれにくいというのもあったと思う。
肝心のストーリーは……説明めんどいので、もし見てない人はwikiのあらすじでも見ておくれ。
まず、テーマが「地震」という事で、どえらいテーマを持ってきたなぁと。
事前情報をシャットアウトしてたからなんとなくしか覚えてなかったが、劇中で緊急地震速報が流れますよ、と注意喚起されてたのだった。
最初に地震速報のアラームが鳴り響くシーンだけで、やっぱり結構な緊張感が走った。
僕は関西人なので東日本大震災は直接被害にあっていないし、阪神大震災は経験したが、子供だったうえにそこまで影響のなかった場所に住んでた。
唯一、2018年にあった大阪北部地震ではかなり揺れた場所に住んでて、揺れだした時に「今日死ぬかも」とリアルに思った。
自分が体験した地震と、映像で嫌というほど見てきた東日本大震災の光景。
今の日本人は「地震」というワードや地震のアラーム音で即座に「死」を連想出来るようになってしまった。
それはアニメの中の表現であっても同じで、自分だけでなく映画館の空気が一瞬で変わるのを感じた。
それも映画スタートから10分で起こったから観客は気を抜くヒマもない。
そこから最初の扉を閉じるまでのテンポ感は絶妙で、扉を閉じた瞬間にタイトルバックがドン!!!!
最高のアバン、きたっ!!!!
震えた。いやぁね、これはもうね、優勝ですよ。
マーーーーージでカッコ良すぎた。
一応説明するとアバンとは「アバンタイトル」の事で、映画とかアニメでオープニング曲やタイトルが出る前に流れるシーンの事です。
そもそも映画にはアバンと呼ぶほどのシーンがないものも多いですが、現在のTVアニメではほぼ100%と言っていいくらいあります。
これも2000年代のアニメくらいからだと思いますね。90年代より昔のアニメは必ずオープニングテーマから始まってました。
なので「アバン」はどちらかというとアニメ勢の方が馴染みがあるかと思います。
実際アニメ映画にはアバンがあるものが多いですしね。
でも新海誠はこれまであまりアバンにこだわっている感じはなく、君の名は。も天気の子も「静」か「動」か、で言えば「静」のアバンで、しっとりと始まっていたイメージで特別印象はなかった。
僕の中でアバンの天才、と言えばやっぱり「破」以降のエヴァ新劇場版だ。
冒頭から盛り上げるのがめちゃくちゃ上手く、アバンの段階で見る気スイッチをグイッと押され、タイトルバックで絶頂を迎える。
もうね、イッちゃう、のよ。
すずめの戸締まりはまさにそうで、タイトルバックが出た瞬間。マジでイキましたよ。素直に射精です。すみません。
信じられない人は今すぐアマプラで冒頭12分を見て下さい。タイトルバックまで全部公開されてるので。イキますよ、マジで。飛ぶぞ、マジで。
こんな事されちゃうとね、この時点でもう評価がある程度決まっちゃうよ!
マジで冒頭12分は芸術作品の如き映像です。新海さんはこれに味をしめてこれからもアバンに気合入れまくり続けて下さい。よろしくお願いします。
まあでも!ちょっとだけ穿った見方をすると、こうもテンポよくアバンを見せつけられると、
あっ、僕たち観客は誠に信頼されてないんだな……
とも思っちゃいます。あれだけテンション上がっておいて何やねん、って話ですが、ここまでキャッチーに作ると言うことは客を飽きさせないように細心の注意を払って作られている感があります。
そしてこの映画はアバンからこの後ラストに至るまでゆったりしたシーンがほぼなく、凄いテンポ感で進んでいく。
ある意味それは、制作側が観客のレベルを低く見積もっているからなんじゃないかと……。
そう思ってしまうのです。君の名は。の時に「バカにでも分かる映画」と揶揄された、というような事をひとつ前のブログに書きましたが、そうなのです。
制作側が観客の大半をバカと判断したからこそあの出来なのかな、と。
まあ考え過ぎと言われればそうかもしれませんが、大好きな映画であってもこれくらいのノイズを感じながら見る方が、盲目になり過ぎるのを防いでくれるのでいいかな、と思ってます。
とりあえず、最高のスタートを切ったこの映画。
流れとしてはロードムービーで、主人公のすずめは九州から東北まで行きますが、正直その間に出会う人々は皆あまりにいい人たちで、すずめにとって都合の良すぎる展開だとは思いました。
まあそれくらいは見て見ぬふりをしましたが(笑)。
というか、神戸で出会うスナックのママ役の伊藤沙莉が上手すぎてその辺の意識飛んでしまった。
僕は兵庫県加古川市出身なので神戸と方言がほぼ一緒なのですが、その辺りは播州弁(ばんしゅうべん)と呼ばれる、いわゆる大阪人が使う関西弁とは少し違うんですよね。
それをあまりに自然に使いこなしてて、絶対違うと思いながらも映画鑑賞後、伊藤沙莉の出身を調べた程でした(ちなみに、千葉出身でした)。
同じスナックで働いてた女の子を神戸出身の声優、愛美がやってましたが、彼女の本場の方言と比べても遜色なかったですもんね。いやー、凄い。
で、内容に戻りますが、映像に関しては当たり前ですが更にレベルアップしてる感じはありました。
ありました、が、何と言ったらいいのか説明が難しいんですが、新海誠の映像はひたすらに美しくて最早それが非現実感を強くしている程だと思うんです。
それがどんどんレベルアップし、有能なスタッフが投入され作画レベルが現実に近付けば近付くほど新海誠っぽさ=非現実感が薄まっていっているような気もするのです。
昨日ブログに書いた、雲のむこう、約束の場所で感じた美しさとは何か少し変わってしまったような。
僕は彼の狂気を感じるほどに美しく、最早この世のものとは思えない世界観が好きだった。
けどそれが研ぎ澄まされるほどに狂気は薄まってきているように思える。
映像的には「言の葉の庭」辺りが一番好きかもしれません。
まああれは常に雨が降っていて画面の情報量が多いので、より美しく見えてしまうのかもしれませんが。
キャラデザに関しても、君の名は。から田中将賀さん(あの花でお馴染み)が参加され、よりポップさが増しましたが、これに関しても言の葉の庭くらいのキャラデザが一番好きだったりします。
まあでも言の葉の庭のキャラデザだったら君の名は。もあそこまでヒットしなかったように思いますが(笑)。
新海誠がOPムービーを制作した「ef -the latter tale(エロゲ)」。
この映像がめちゃくちゃ好きで。この感じ、また見たいなー、なんて。
後は、地震を起こすといわれる「ミミズ」ですが、それに触れてミミズが崩れたり飛び散ったりする作画が凄くジブリだなーと。
こんな感じ。
で、扉を閉じてミミズが消える時の音とかその後に降る雨とかはまんまエヴァって感じで。色んなオマージュ?があったな。
ていうかこれを書くにあたり雲のむこう、約束の場所とかを少し見返したら庵野秀明っぽいアングルが結構あった。あんまりそういう見方してなかったから発見でした。
あ!
忘れていました、この映画で一番重要な事。
新海誠くんの性癖。
言の葉の庭の時は、これでした。
これねえ。誠くんはあれなのかな?足フェチなのかな?
このシーンなんて完全に性行為でしたもんね。良いんですかこんな事!
そして今回、すずめの戸締まりでも出てましたね。
子供用イスにされてしまった草太ですが、神戸のスナックで夜食を食べる際に何故か急に(夜中のテンションなのか)すずめに座られてしまいます。
まあイスだから問題はないのですが、触ればちゃんと体温もある人間の感覚を残したイスですよ?
それを座る動作をしっかりと作画したうえで、座らせています。
おい、こんなもん……
顔面騎乗やないかい!!!
いや部分的には胴体になると思うんですが、もう顔面騎乗みたいなもんですよあれ(笑)。間違いない。
でその後東京にて、草太の部屋で高所の荷物を取る為にまたもやすずめはイス(草太)に乗ります。
今度は裸足で脚立のごとく踏みつけます。
おい、誠……
おまえドMやないかい!!!
分かってた。言の葉の庭の時から分かってたよ。お前がドMの足フェチだという事は。
そんなお前が大好きだよ!!ドMで足フェチなお前が大好きだよ!!
だってオレも同じ性癖だから!!!!!
オレもお前と同じで、イスになりたいよ。
やっぱりお前は信用に足る人物だよ。
誠。ついていくよ。これからもずっと。
……安心したよ。
新海誠は君の名は。でプロデューサーの川村元気と出会い、作家性を売り払い、成功を手にしたと言われたりしていたが、作家性はちゃんとここにあったんだ。
あ、もうひとつだけ!「言の葉の庭」以降、花澤香菜を毎回キャスティングしてるよな?誠。
正直に言えよ。それくらい許されるよ。オレもお前と同じ立場だったらやってるよ。
お前、ただ花澤香菜が好きなだけだよな?
花澤香菜に会いたくて仕方ないんだよな?
仕方ないよ。可愛いもんな、花澤。いい声だもんな、花澤。
お前がうらやましいよ誠。どうどうとこんな事ができるお前が……。
と、まあおふざけはこのくらいにしておいて(性癖の件は事実ですが(キッパリ))。
物語が進むにつれ、すずめが母と死別したのが12年前だと分かった時から「もしや…」と思ってましたが、出身が東北だと分かった時点で鈍い僕も流石に気付きました。
まさか東日本大震災をがっつりストーリーに入れ込んでくるとは……。
明言を避けてはいましたが、すずめの母の死因は間違いなく東日本大震災。
東北についた後で建物の上に船が乗り上げてるシーンがありましたね。
このインパクトは凄かったですからね。アニメで見ても一目瞭然。
言葉にしなくても全員このショットで全てを理解したでしょう。
僕的にはその前、既になくなってしまったすずめの実家跡のシーンでもかなり胸に来ました。
実は、僕は東日本大震災の約2年半後の2013年9月に「気仙沼ジャズストリート」というイベントに出演するために、仙台と気仙沼に行ったことがあるんです。
仙台は活気で溢れていましたが気仙沼はこんな感じでした(僕が撮った写真です)。
すずめの実家がこの時の光景と全く同じで、息を呑みました。
これが君の名は。から数え3作目のテーマか、と。
君の名は。は、三葉を救う事があの町の人々を救う事と同義になっている、女の子も世界も救う物語でした。
天気の子は、ひとりの女の子を救い、東京を水没させる事を選ぶ、世界を滅ぼす物語でした。
僕は天気の子のラストに衝撃を受けました。
いわゆるセカイ系の作品が好きで色々見ましたが、「世界を救うか、少女を救うか」みたいな流れになっても結局は奇跡が起きてどちらも救われるか、少女を救えないというオチがほとんどでした。
最終兵器彼女のように主人公にはどうしようもない外的要因で世界が滅ぶ事はあっても、主人公が自分の意志で世界の滅びを選択する物語を見た事がありませんでした。
しかも大ヒット映画で主人公がそんな選択をするなんて。
だからこそラストシーンの陽菜が祈ってるシーンは涙なしには見れなかった訳で。
そして今回は遂に、前2作の根幹に係わる東日本大震災に触れてくるなんて。
勇気がいっただろうと思うんですよ。こんなテーマ。まして君の名は。のように過去改変が出来るわけでもなく。特別な救いがある訳でもない。
でもみんなそんな現実に生きている。
すずめが周りの人との関わり合いを経て、自分で現実に向き合えたように、
現実世界ではみんなそうしていくしかない。
君の名は。でもない、天気の子でもない、リアルなお話を見た気がしました。
とは言え、ツッコミどころもある。今のところ一回しか見てないし、変なバイアスがかからないよう他者の感想や解説もほぼ見てないから、ちゃんと見たらわかるだろ!
と言われるかもしれないが、一応書こう。
まず第一に、「閉じ師」という存在は草太の家系だけなのか?
地震が起きるメカニズムが分かっているのであれば国家ぐるみで対応していておかしくないハズなのに何故あんなにヒッソリやっているのか?
日本が閉じ師専門学校でも作ってちゃんと対応していたら大震災なんて起こらなかっただろ!
って感じで、一番気になったのがこれかな。他にもダイジンの行動原理が今ひとつ分からなかったりしたけど、この疑問が一番大きかったな。
後、天気の子に瀧や三葉が出てきて、君の名は。と繋がった話だった事が分かったが、すずめの戸締まりでは東京が無事だったので別世界の話だという事か。
もしくは君の名は。と天気の子もあくまでパラレルワールド的なつながりなのか。
これはツッコミどころというか気になった点かな。
まあそういうツッコミを入れながらも、この作品が強く胸に刺さったのは事実で。
新海誠にはこの先も凄く凄く期待している。という感じでしょうか。
これからも地震の恐怖は日本人全てに降り注ぎます。
でも、これからは地震が起きた時に「ミミズがやったのかな、早く扉締めてくれよ!」と少しでも笑えるようになろう、と思った。
すずめの戸締まりは、そんな救いを少しだけ僕にくれた映画だったんだ。と。
……なんか急にカッコつけたら締り切らなかったな(笑)。
とにかく!そんなこんなで、「すずめの戸締まり」感想でした。
今回も面白かったぞ!新海!