映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を見た。
結論から言うとあまりにも素晴らしくて刺さりすぎて、何か言葉を吐き出さないとどうしようもない気持ちになったのです。
ちなみに、劇場公開されてる時に行こうか迷って結局行かなかったのを死ぬほど後悔しつつ今これを書いてます(結局配信で見た)。
まず、僕は映画前後編を見て、その後アニメシリーズを見ました。原作未読。
原作未読勢がウダウダ言うのもなんだが、原作者の浅野いにお、彼と僕の関係について、彼との確執について話したい(勝手に僕が抱いてるだけの気持ちだけどw)。
僕が浅野いにおと出会ったのは2002年か2003年。
漫画好きの音楽専門学生だった僕は、同級生のサブカル女子とオススメ漫画を貸し借りし合っていた。
そこで彼女が僕にオススメしてきた漫画の中の一冊が浅野いにおの単行本デビュー作「素晴らしい世界」だった。
それまでジャンプやサンデーといった、いわゆるメジャー誌の漫画で育ってきた僕にとって新鮮で、何か心がザワザワする感覚を覚える、モラトリアム期の自分に凄く刺さる作品だった。
けど、どことなく感じるオシャレサブカル感みたいなものが僕の心の奥で浅野いにおを拒否してくる。
そもそも男女の好みの違いもあるのか、当時彼女が僕に貸してくれた漫画の中の多数はそういったオシャレサブカル感があるものばかりで、色々オススメしてくれるのはありがたいと思いながらも、彼女との感性の乖離を実感していた。
とはいえ、彼女が貸してくれた漫画は面白かった。
けど何故か、どうしようもなく湧いてくる生理的嫌悪感!「どう?僕オシャレでしょ?部屋に置いてたらモテるよ?」って漫画が語り掛けてくるような!
単に「人に勧められたモノなんか好きになるもんか!」というトガった気持ちもあったかもしれない(誰にでも大なり小なりあるよね?この感覚!)。
どちらにせよ形容しがたい、胸をじんわり刺す気持ち悪さみたいなものを感じてしまったのだ。浅野いにおを読んで。
とはいえ十代後半の僕は漫画だけでなく、同じく彼女に教えられたヴィレッジヴァンガードにドハマりして入り浸り、ヴィレヴァンにしか置いてない漫画やサブカル雑誌を買い漁ってサブカル沼にどっぷりハマっていった。
COMIC CUE、エロティクスf、こういう雑誌を読み漁って自分の世界に浸ってたんですが、よく考えると浅野いにお好きのサブカルクソ野郎と全く同じムーブを自分はしてた訳で(笑)。
なのに浅野いにおに対するどうしようもない嫌悪感!これはただの嫉妬なのだろうか……。
この辺りの感情は未だにうまく言語化できない。
まあ、いにおについては一旦置いといて「デデデデ」の話。
劇場公開された2024年の春、話題になってて面白そうだったし、見に行こうかなという気持ちはあったがなんだかんだスルー。原作「浅野いにお」ってとこがやっぱりひっかかってたり。
てことで配信待ちだったのですが、いざ配信が始まってみれば前後編2作の劇場版だったものが、全18話のアニメシリーズに再編されたものになってて、「いや、劇場版で見たかったのに!」ってなってまたスルー。
なんとなくの感覚ですが、デデデデは「アニメ」ではなく「映画」として見るべきなんじゃないかと思ったんですよね(結果的にそれで良かったと思いました)。
そしたらU-NEXTで劇場版が配信されてるのを発見して速攻視聴しました。
そしたら、まあ…………
めっちゃくちゃ刺さる刺さる!!
刺さりまくって死ぬかとおもた。
そもそも僕は中学生でエヴァ沼に引きずり込まれてから今の今まで絶賛中二病継続中、セカイ系大好き人間なので、見る前からツボにハマりそうだと思ってたけど、予想を大きく上回るぶっ刺さり具合でどうにかなるかと思いました。
いやどうにかなっちゃった挙句こうやってブログを書いてる訳ですが。
基本このブログは見た人向けに書いてますが、一応軽く「デデデデ」のお話を説明すると、
3年前の8月31日、突如東京都に巨大な空飛ぶ円盤、通称「母艦」が襲来。そこから出撃した「侵略者」の攻撃によって多くの死者が出るが、アメリカ軍の攻撃によって母艦は渋谷区の上空で停止。母艦から出撃する侵略者の宇宙船も逐次迎撃された。
上空には母艦が浮き、時折自衛隊と侵略者との戦闘が行われることが日常となった東京で、小山門出(かどで)は中川凰蘭(おうらん)ら親友たちと共に青春を謳歌していた。人類が終了する日が間近に迫っているとは夢にも思わずに―
〈Wikipediaより抜粋〉
という感じなのだが、見る前の予想としては主役のこの二人(左:門出 右:凰蘭)
が、空に浮かぶ円盤と特殊能力で戦ったりする話、なのかなーとか思ってましたが全然そんな話ではなく……。
肩透かし食らって中盤までは「思ってたのと、違う!」ってちょっとだけ心離れてた。
ただ、
こういう煽り文句は大好物。中二病の血が騒ぐぜぇぇぇぇ!!!
この人類終了カウントダウンがゼロになる瞬間は来るのか、本当に人類は滅びるのか、ワクワクしてそればっか考えながら見続けた。
劇中要所要所でこのカウントダウンが出てくるので、単純に物語の引きとして凄く上手いですね。
で、ワクワクしてしまった分、芽生えてくる気持ち……
ここまできたら、絶対に滅びろよ?人類。
僕は見たかった。この映画の最後で人類、というか世界が滅びるさまを。
カタストロフを見たかった。
僕の一番好きなアニメはエヴァンゲリオン。好きな漫画は最終兵器彼女、なるたる。
——最近気付いた。僕の心にトゲを突き刺してきた大好きな作品たち、
全部ラストで世界滅びとる。
世界滅びる系作品大好き、ヤスユキくんです!よろしくね!
最近なるたる(作:鬼頭莫宏)を読み返して、明確に認識したんですよ。よく考えたら鬼頭莫宏もいにおと同じサブカル誌に掲載してた漫画家だったな。
とまあそんなメンタリティの中こんな映画見てしまったもんだから余計に破滅的なラストを見たくなった訳で。
ちなみにこの映画での『人類終了』とは、東京上空の巨大円盤(母艦)が爆発するというもの。でも大葉くんが止めようとしちゃうので、
「阻止すんなよ!お前絶対阻止すんなよー!」てめっちゃ思いながら見てました。ひどい(笑)。
まあそう思いながらも、「これはうまく母艦の爆発を止めて、ギリギリで救われるハッピーエンドになるかなー?」とも思ってました。
が、
母艦、爆発しました。母艦爆発して、東京、消滅しました。
うっそぉぉおん!!!!!!
最っっっ高 !!!!
マっジで興奮した。興奮して気絶するかと思った。
理由はいろいろあるけど、一番良かったのが音楽と映像とのコントラスト。
母艦が爆発する寸前、BGMでこの曲が流れ始めます。
あした地球がこなごなになっても(でんぱ組.inc)
浅野いにおが作詞を手掛けたでんぱ組の曲で、この映画のために書き下ろされたものではないが(制作は原作開始直後)、「デデデデ」が映像化された時のために仕込んでやがったな!としか思えないくらい作品、映像にマッチしてて、本当に最高だった。
まあ明らかにデデデデと同じようなテーマで作詞してるしマッチして当然かもですが(ちなみに作詞自体も素晴らしいです)。
無音でこの曲だけが流れる中、爆発によって街は消滅していく。
「悲しみやおそれではなく、ただ淡々と、来るべき日が来てしまったんだなと、どこか安堵にも似た気持ちになったのを覚えています」
主人公のひとり、凰蘭のモノローグでこう語られるがまさにそうで、普通であれば絶望的なシーンのはずなのに、でんぱ組の明るい曲調もあってとてつもないカタルシスを生み出していた。
正直この映画が僕にぶっ刺さったのは全てこのシーンがあったから。
このシーンに僕の求めたもの全てが詰まってた。愛おしいほどに。
ここでちょっとこのラストシーンについて、というかエンタメ作品における世界の破滅について語りたいんですが、僕は1984年生まれで90年代後半に思春期を過ごしました。
90年代後半といえばバブル崩壊から数年。本格的に不況の足音が聞こえ、就職氷河期に突入し、「ノストラダムスの大予言」が話題になったり(1999年7月に世界が滅びるという予言)、2000年問題が危惧されたり(西暦が2000年になるとコンピュータが年月日を正しく認識出来なくなり世界中でトラブルが起こる)、とにかく21世紀を前に終末感が日本中に漂っていた。
そういう雰囲気は世界のエンタメ界にも影響を及ぼしていて、90年代後半には大味の大作ディザスタームービーが沢山作られた。
◎インデペンデンス・デイ(96年・宇宙人が襲来して人類終了)
◎ディープ・インパクト(98年・隕石落ちてきて人類終了)
◎アルマゲドン(98年・隕石落ちてきて人類終了)
思春期にこういう作品群を怒涛のように食らってて、もちろん全部大好きなんですが「破滅」、といえば90年代は宇宙人や隕石といった凄く大雑把で現実味のないものだった。
しかし時代が2000年代、2010年代、2020年代と進み現実の閉塞感がどんどん広がっていくと貧困、精神病、希死念慮など「破滅」はより身近で現実感のあるものに変化していった。
90年代後半、20世紀末は終末感が漂っていたと書いたが、とはいえほんの数年前まではバブル経済で浮かれまくっていた訳で、本当の危機感なんてほとんどなかった。
今感じる危機感とはリアリティが違う。あくまでも僕の肌感覚だけど。
とにかくそういった時代の変化が、直接生命を脅かすようなものは何も出てこないのに、ただ普通に生きているだけでどことなく感じる絶望を描いた作品を生み出した。
そういう作品を描く作家の中のひとりに浅野いにおはいたと思う。
そんな浅野いにおが今の時代の閉塞感、絶望感、若者の多くが持つ希死念慮などを90年代ディザスタームービーの象徴のような円盤に込めた。
デデデデの母艦そっくり!
という訳で90年代ディザスタームービーと今の時代感を融合させたものが「デデデデ」だと思う。僕にはそう見える。
——長々語ったが、デデデデのラストシーンで感じたカタルシスに話を戻す。
90年代ディザスタームービーに出てきた円盤や隕石には、「うわー!人類が滅びちゃう!!」という分かりやすい絶望感があった。
けど母艦の爆発はそういう感覚とは全く違って、というか全く逆で、絶望感や閉塞感を全て消し飛ばしてくれたように感じた。
劇中、空に浮かんでいる母艦はみんながなんとなく感じている不安を具現化したものに見えるが、それが爆発して東京が消し飛んでいくさまを見ると、東京という街並みすらも不安を具現化したものだったかのように思えてくる。
だからこそのカタルシスだった。
「地球ぶっこわれて世界終わんねえかな……」
というセリフが劇中にある。
このセリフになんとなく共感できる人は多いと思うが、全てが消し飛ぶラストシーンは、そんな人たち全てを救ってくれたように見えた。もちろん僕も救われた。
だから、このラストシーンだけで見る価値のある作品だと思った。
あと、デデデデを見て思い出した作品——
僕はこの作品がめちゃくちゃ好きなんですが、デデデデと似たところが多い。
主人公の住む街には医療機械メーカーのドデカい建物がある。↑
この建物は主人公の憂鬱な気分を煽るように、毎日爆音と共に大量の煙を吐き出している。
まあそんな世界観なんですが、実はこの建物はドデカいアイロンで、地球外の組織がこれを使って地上をまったいらにしようと目論んでいる、という事が最終話で分かる。みたいな話なんです。
毎日吐き出されていた煙はアイロンのスチームだったと!
で、アイロンを起動するためにデッカイ手が出現。
まさにアイロンがけ(笑)。世界を滅ぼすものがアイロンってとこがシュールでめちゃくちゃ好きです。
これを見てもらうと分かると思いますが、日常に溶け込んでしまった巨大な物体や、最後に巨大な手が出てくることなど、デデデデと共通点が多いですね。
ちなみにデデデデのラストシーンでデカい指が出てきますが、そのとき空に出来る空間はエヴァQのシーンにそっくり。
うん、そっくり。エヴァもデデデデもカッコいいよねえ。
エヴァ以降始まったセカイ系の流れをしっかり汲んでいる感じがして好きです。
浅野いにおはデデデデで本格的なSFを、セカイ系をやりつつ、これまでのセカイ系で意図的に排除されてきた社会をしっかり描いている(これはアニメシリーズのほうがしっかり描写されているが)。
セカイ系の最終到着地点を見せられたかのようで、くやしい!
あと、ここまで触れてませんでしたがデデデデには「ループもの」の要素もあります。並行世界と言ったほうがより正確な感じがしますが(最近だとマルチバースのほうがいいか!?)。
そういうこともあって、「魔法少女まどか☆マギカ」に似てるとも言われてたりしますね。凰蘭がほむらちゃんみたいだと。
僕はこれに関しては全く思わないので、
凰蘭とほむらは全然ちげーよ!!
とデカめの文字で叫んでおきますね(長くなるで詳しい説明はパス!)。
——閑話休題。
最後に、冒頭からこの映画のラストシーンがどれだけ僕にカタルシスを与えてくれたか、散々語ってきましたが、映画のラストは原作と違うのです。
原作通りのラストはアニメシリーズ版で描かれていると。
映画版ラストシーンの後日談が、アニメシリーズの第0話と第17話(最終話)で描かれているのでこちらは映画を見た後に見たのですが、東京は消滅した、と言ってももちろん全人類が滅びた訳ではなく……。
母艦爆発後人類が滅びかかっているのは事実で、それが門出の父親の目線で描かれます。
東京消滅シーンで最高最高と大興奮していた僕ですが、その後の悲惨な状況をしっかり見せられると、映画のラストで大歓喜していた自分に冷や水を浴びせられたような気分になったり……。
なんかすいません。
人がいっぱい死んだことに対してテンション上がってすいません……。
アニメシリーズのラスト(=原作のラスト)では、ハッピーエンドにストーリーは向かっていき、そちらもかなり良かったのですが、やはり僕的には映画版のカタルシスが忘れられません。
ついさっき謝罪したばっかりなのにすいません。
年を重ねて色んな作品を見ていくと、面白い作品には山のように出会えても自分の胸に傷を刻みつけるような作品にはそう出会えません。
でもデデデデは久しぶりに、とてもとても久しぶりに出会えた’’そんな’’作品だったのです。
今でこうなんだから、もし僕が中高生でデデデデに出会ってたらマジでヤバかっただろうな。
まあ中学生でエヴァに出会ってしまってる時点でもう終わりか。
デデデデが刺さったのもエヴァを通ったからこそとも思えるので、やはりエヴァなしで今の僕はなかったといえるかもしれません。
はい、という訳で以上が「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を見た感想でした。
いやあ今回ほど自分の語彙力のなさにヘコんだことはありませんでした。
こうやって綴ってきた何倍も何倍も感動したんですが、文字にすると最高!刺さった!興奮した!くらいしか書けない……。
僕の語彙力は一旦忘れるとして、とにかく今回の件で僕は、約20年ぶりに浅野いにおと和解したのであった。
いにおに、ありがとう。
いにおに、さようなら。
そして、全てのいにお作品に、おめでとう。
あ、このブログを書こうか考えながら、年始に実家に帰った時に自分の部屋でこれを発見した。
いや、買ってるやん。20年前に。いにおの漫画、友達に借りただけで終わらず、自分で買ってもうてるやん。
元からいにお好きやったんかい、オレ!!!!